信州大学

アブラナ科根瘤病発症を軽減するための緑肥作物の活用

  • 鈴木 香奈子(農学部 助教)
  • 2024/07/02
この研究は、高温や低温によるキャベツの被害を避けるため、緑肥作物の栽培効果を調査している。春季に再度栽培を開始し、根瘤病菌の影響を評価する予定だ。また、暗所栽培手法を利用して緑肥植物の病原菌感染土壌への適用可能性も検証している。生産者の意識調査では、南牧村を含む地域での実態把握が進展しておらず、コンタクトを通じて情報収集を試みている。

1.研究概要

 本研究のポット試験に関して、高温回避のために9月頃から準備を開始したが、その後の急激な低温による被害を避けるために室内にて緑肥作物の栽培を開始した(写真1)。しかし、日照不足による生育不良が顕著であったことから、2024年の春季から各緑肥植物を再度栽培して根瘤病菌の密度を低下させる効果を調べる。

 他方、比較的時間がかかるポット試験以外の方法を模索するべく、暗所栽培手法(小松・吉田 1987)の利用可能性を検証した。暗所栽培とは連作障害が生じる可能性のある土壌を調べる簡易的な方法である。暗所にて一定の温度と水分含量の条件を整え、野菜種子を播種し、発芽障害もしくは生育障害によって萎凋、枯死するまでの日数を調べる方法である。様々な病原菌に感染した土壌の場合、発芽障害が発生し、萎凋・枯死までの日数が短くなるという。この暗所栽培法が根瘤病の感染土壌にも使用できるのか検証した。

 生産者の緑肥作物利用に対する意識調査については、個人的に聞くなどの方法にとどまっている。特に南牧村はアンケート実施までは進まなかった。農協関係者や行政関係者などへ情報を頂けるようにコンタクトを試みている。また、別件ではあったが、農学部主催による「肥料高騰時代の緑肥活用術」という講演会の中で、申請者も緑肥作物による根瘤病の発症軽減の効果について講演した。質疑応答により、上伊那エリアの生産者の意識が少し理解できた。

引用文献

小松武治・吉田隆徳(1987)暗所栽培による野菜の連作障害回避に有効な有機物の検索について. 広島県立農業試験場報告. 50:81-94

2.成果

目的①:様々な緑肥作物の効果の解明

 これは、2024年の研究成果をもって効果の解明について報告したいと考えている。今回の試験では、以下のように供試する種類を増やすことにしている。またこれは卒業研究の一環としても実施する。

  • マメ科:アカクローバー、アルファルファ、クリムソンクローバー、クロタラリア、ササゲ、セスバニア、ダイズ、レンゲ、クズ、ハギ
  • イネ科:イタリアンライグラス、オオムギ、スーダングラス、ヒエ、リクトウ
  • キク科:キンセンカ、コスモス、ヒマワリ

 以上の緑肥植物をビニルハウスにて栽培し、漉き込んで培養してキャベツを栽培し、根瘤病の発症を抑制する効果を明らかにする。

追加実験:暗所栽培の利用可能性の検証

 根瘤病感染土壌を20g使用し、ビニルコップに入れ、最大圃場容水量の60%に定量して25℃でインキュベーターの中でキャベツを3反復で生育させた(写真2)。光合成に頼らない、発芽から初期の伸長状況を無処理とアセトン滅菌の条件下で調べた。結果として、無処理区の反復1の状態が悪く、これが病害の影響なのかは特定できなかったため、無処理区は2反復でアセトン滅菌区は3反復で観察を続けた。キャベツの萎凋開始日は無処理区の方が少し早く萎凋しやすいことが分かった(表1左)。しかし、枯死するまでの日数(生存本数が3本以下になるまで)には異なりはほとんど認められず(表1右)、利用可能性については再度検証が必要である。検証方法としては、今年に実施するポット試験から各緑肥植物の栽培後の土壌を必要量採取し、暗所栽培を再度試みる。対象区はこれまでと同様にアセトン滅菌区と無処理区とする。暗所栽培法に着目する理由は、ポット試験で数ヶ月間かけて緑肥栽培後にキャベツを栽培する方法よりも、簡易的に短期間で実施できる暗所栽培法によって、有用な緑肥植物を選定できる方法を確立できると考えているからである。

目的②:高冷地(南牧村)と上伊那エリアの生産者の緑肥導入への意識調査  2024年3月17日に農学部主催による「肥料高騰時代の緑肥活用術」という題目の講演会が開催された(資料1)。申請者も「緑肥作物の導入が高冷地キャベツの生育と根こぶ病発生に及ぼす影響」という題名で講演を実施した。質疑応答の中で緑肥導入が必要であることを伝えてくれた生産者は多々おり、特に駒ケ根市のコメ農家の方はマメ科緑肥(クロタラリアとセスバニア)の有用性を教えてくれた。行政からの助成金を目的に実施する生産者も多いが、実践した方々がその有用性を自身の経験からよく理解していることが分かった。農学部キャンパス周辺の上伊那エリアは田畑輪換が多く、稲作の後の二条麦や大豆の栽培における緑肥導入に関心が高いように思えた。一方、高冷地エリアにおいてもライムギの導入は徐々に増えているようではあるが、実態調査はできていない。今後も各エリアの関係者へコンタクトを続けて、緑肥導入の状況を調べていく。

写真1. 室内で栽培していた時の状態
LEDライトを利用していたが日照が少なく生育が不良であった.
写真2. 暗所栽培で栽培していたキャベツ
栽培開始から20日目の無処理区(上)とアセトン滅菌区(下)の状態.

表1. キャベツの暗所栽培による萎凋開始と枯死開始日

発芽率100%の種子を用いている. 強度の感染土壌では発芽障害も生じる.
今回は初めて実施したため、無処理区の反復1が土壌病害の影響かどうか判断できなかったため、平均値は反復1以外で算出.

資料1.2024年3月17日に開催した講演会のポスター

現地観測風景(サンゴ礁海域での水質観測)


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その他の研究成果