信州大学

留学生がつなぐ多文化防災・減災コミュニティの実現をめざす実践的教育プログラムの開発

  • 仙石祐(グローバル化推進センター 講師)
  • 2024/07/02
このプロジェクトは、日本に学ぶ留学生や留学卒業生を地域の防災・減災活動に参画させることを目的としています。具体的には、①先行事例調査、②中高生との国際共修、③大学生とのPBL型共修、④外国系住民へのインタビューとの連携、⑤防災・減災マニュアルの作成、⑥教育プログラムの立案を進めています。留学生によるコミュニティ防災・減災の教育プログラムを発展させ、地域と外国系住民の橋渡しを図ることを目指しています。

背景および問題の所在,プロジェクトの目的,実施内容・方法(仙石担当)

 災害が多発する日本では,外国系住民を災害時における「支援の担い手」として位置づけ,その主体性の向上及び地域参加の促進を図る議論があるものの,一部の事例を除き実例は少ない.こうした状況下,日本で学ぶ留学生・留学卒業生等を地域の防災・減災活動に向けて参加を促し,共助の人材として育成・活用する取り組みが一部の地域で展開されている.こうした取り組みは,支援人材としての外国系住民に対する地域の期待に応え,また彼らの支援ニーズに対応するという点において,地域と外国系住民の橋渡しを推進する活動としての意義が高い.

そこで本プロジェクトでは,留学生・留学卒業生等が主体的に参画する,多文化防災・減災コミュニティの構築に向けた,新たな方法論を解明することをめざした.具体的には①先行事例調査,②一般学生との学び合い1(中学生・高校生との国際共修のデザイン・実践・評価),③一般学生との学び合い2(大学生とのPBL型国際共修のデザイン・実践・評価),④外国系住民へのインタビュー(中間支援組織との連携),⑤多文化防災・減災マニュアルの作成(自治会との連携),⑥多文化防災・減災教育プログラムの立案,という取り組みを通じ,留学生等を対象とするコミュニティ防災・減災の教育プログラムの開発を進めることを企図した(なお次年度以降④は持ち越し,⑥は具体化させる).

多文化防災・減災の取組事例調査(大庭・仙石担当)

(滋賀県草津市,外国人による機能別消防団)留学生等に外国系住民を支援する側になってもらうことを意図して2015年に結成された.平常時は各種訓練や救命講習,地域消防団との意見交換,市内の大学や地域イベントにおける啓発活動等を行っている.草津市国際交流協会のキーパーソンによる人材確保やマネジメントが功を奏し今日に至る.自治体や中間支援組織などが積極的に協力・連携し,留学生等の地域参加とそのための教育・訓練の枠組みを構築することが有効に作用した好例である.

(熊本県熊本市,熊本大学留学生グループKEEP)2016年の熊本地震を経験した当時の留学生らにより結成されたKEEP (Kumamoto Earthquake Experience Project)は,被災経験の収集,自身の経験の発信,留学生・外国系住民の防災・減災活動への参加促進,外国系住民・外国人支援関係者に役立つ情報を提供している.外国人としての被災経験を自ら伝え,得られた教訓を共有しようとする試み.

(北海道札幌市,災害多言語支援センター及びSAFE)2018年北海道胆振東部地震の際には,札幌国際プラザに災害多言語支援センターが設置され,留学生をメンバーに含むSAFE(Sapporo Assistance for Foreigners in Emergencies)が多言語翻訳・配信や避難所巡回による外国人相談を行った.多文化共生に携わる職員とコンベンションビューローの職員がともに災害時の対応を行う珍しい事例.

多文化防災・減災の教育実践:中学生・高校生との国際共修のデザイン・実践・評価(仙石担当)

国際共修を中学生・高校生の多文化防災・減災の教育実践に取り入れた2つの例を取り上げる.

(信州大学教育学部附属松本中学校)英語の授業で留学生と生徒がともにHUG (Hinanzyo Unei Game)に取り組み,「留学生にも日本の避難所のルールやイベントを知ってもらう」「留学生の出身国の避難所のルールやイベントと比較してみる」の2点について学び合うこととした.ゲーム性の高さから,留学生も生徒もすぐに打ち解けてともに取り組むことができた.留学生は,日本の災害の種類の多さやそれへの対応がしっかりと計画されていることに驚いていた.実際の学校構内を利用したリアリティもあり,日本と各国の防災への取り組みの理解とその比較は進んだものと一定の評価ができる.

(長野県松本深志高等学校)全4回の「グローバル教育ゼミ」において,「バックグラウンドが異なる人たちが,ここ松本でよりよく共生する方策について考える」「災害が起こったとき,言語や文化の壁をどうやって乗り越えて,どのように助け合えば良いか,その方策について考える」の2点について,留学生と生徒が学び合うこととした.講義・班に分かれて防災のポイントを見つける蟻ケ崎地区の街歩き・プレゼンテーションにより,留学生側と生徒側で日本と各国の防災への取り組みとそれへの意識を比較・評価し合い,双方の考え方の差異の共有・理解・受容が進んだと考えられる.

多文化防災・減災の教育実践:大学生との国際共修のデザイン・実践・評価(永田担当)

 2つの本学の授業において,留学生と国内学生による多文化防災・減災の教育実践を試みた.

(グローバル人材論(「グローカルマインド」養成))松本市の防災・減災担当者と多文化共生担当者を招いての講義では,行政の取り組みについて学び,本学教員による講義とグループディスカッションでは,災害時における公助と共助に焦点を当て議論を行った.またフィールドワークでは防災倉庫の設置を確認しつつ,松本キャンパスを防災の視点から見て回り,調査の成果を発表し合った.これらの取組みを通して,留学生は日本の防災について理解を深めるとともに,本学の防災教育の充実,防災組織作り,さらには安否確認システムの導入必要性にまで議論が及んだ.

(オンライン国際共修ゼミ(日本伝統文化と現代社会))信州大学生に加えロシア・中国・台湾の大学生らが「信州大学内に避難所を設置する場合(屋外),どのような設備や機能を備えることが望ましいか」をテーマにグループワークを行った.また本講義を海外プログラムでも使用できるダイジェスト版英語動画として作成した.この授業では,互いに「外国人」としてのアイデアや意見交換を通して,留学生は日本における災害発生状況や発生時の対応方法を学ぶことができ,また国内学生も防災・減災対策について国によって異なるという気づきを得ることができた.

多文化防災・減災の教育実践:地域コミュニティとの連携による学びのデザイン・実践・評価(神田担当)

 外国系住民が増加する中,彼らと日本人住民が支え合うことのできる避難計画が必要である.そこで地域コミュニティとの連携による学びに先立ち,外国系住民と日本人住民が共通して持つ防災・減災マニュアルの作成に取り掛かった.モデル地区としては本学の国際交流会館(留学生寮)が所在する城東地区を選定した.事前に城東地域づくりセンター長・城東地区防災部長と打ち合わせを持ち,本プロジェクトの説明及び協力依頼を行うともに,作成中の「城東地区防災マップ」に留学生の視点を反映させること,そのマップをもとに城東地区で危険箇所を地図上にプロットするフィールドワークを行うこと,そして今後の城東地区の防災計画にフィールドワークの成果を反映し,地域防災計画作成に留学生の参加を促すことなどを確認した.そして2024年2月に行ったフィールドワークには,城東地区の住民と本学で学ぶ留学生がそれぞれ参加し,「城東地区を散策し,危険箇所または防災上長けているところを留学生の視点で抽出する,そして抽出内容を城北地域に提供する」活動を行った.

 本企画を通じて城東地区住民と留学生は,第一に日常のコミュニケーション重要性を確認し合った.防災・減災の仕組みは常日頃の意思疎通が活きる仕組みになっているからである.それぞれが担える役割のもと,今後互いの命を守れる活動につなげていくことを確認ができた.

多文化防災・減災教育プログラム:基本的な考え方と設計のポイント(仙石担当)

 1年間に及ぶ本プログラムの成果から抽出された多文化防災・減災教育プログラムの基本的な考え方と設計のポイントは,下記に列挙する通りである.これらのエッセンスをもとに,2024年度はその具体的な実装を行う.

1.大学と自治体・中間支援組織等の連携による,外国系住民支援を含む教育プログラム設計

2.外国系住民(留学生)による被災経験・防災減災活動の共有と継承

3.座学とフィールドワーク(ゲーム等)を組み合わせた防災減災活動の国際比較と体験

4.防災(具体)と異文化(抽象)の行き来による他者視点の共有・理解・受容(国際共修の手法)

5.オンラインも活用した第三者(海外在住者)の視点導入

6.地域住民も留学生も自分がコミュニティの一員であることの再認識

7. 6のステークホルダーの定常的コミュニケーションと地域防災計画策定への留学生参与

HUG に取り組む留学生と中学生たち
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松本市担当者を招き,留学生と国内学生が参加した授業の様子
学生たちと作成する「城東地区防災マップ」

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その他の研究成果