通信インフラ不利地域におけるLPWA通信エリアの拡大と気象データの利活用
- 渡邉修(農学部 准教授)
- 2024/07/02
長野県下伊那郡根羽村は森林資源が豊かで、愛知県三河地域を潤す矢作川の源流があり、森と水のグリーンインフラを保全する活動が行われている。水源地として重要な地域であるが、村内にはアメダス観測点がなく、村役場で雨量計測が行われているのみで、根羽村では気象観測がほとんど行われていない。これまで研究用の雨量計や温度計など気象観測は、データロガー形式が主体で定期的な回収が必要であったが、データの即時性がないことが問題であった。近年、LPWA(小電力長距離通信規格)に対応した気象センサーが開発され、センサーで取得した情報をリアルタイムに取得できるシステムの構築が可能となった。本プロジェクトでは、根羽村にLPWA雨量計を設置し、雨量のリアルタイム観測を行うシステム(別紙 図1)を試験的に運用し、近隣のアメダス観測点(浪合)とのデータの比較を行うことで、気象観測(雨量計測)が可能かどうか検討した。また、LPWAは携帯圏内でしか通信できないため、仮設中継局を設置したケースを想定し、通信エリアがどの程度拡大できるか検討した。
LPWAに対応した雨量システムを根羽村高橋地区に設置し(写真)、2023年5月から11月の期間の日別降雨量を集計した結果、5月から11月の降雨量は根羽村で1576mm、アメダス(浪合)で1777mmであった(別紙図1)。日別降雨量のデータを確認した結果、降雨パターンが類似しており、根羽村高橋地区に設置した雨量観測システムは良好に稼働していると判断した。今回導入した気象観測システムは、データが15分ごとにクラウドに送信されリアルタイム観測ができる点に大きな特徴がある。 LPWAは携帯圏内で通信できるが、根羽村の大部分は携帯圏外であるため、中継局を独自に設置した場合、どの程度通信可能エリアが拡大できるか、地理情報システム(GIS)を活用して、通信可能エリアのシミュレーションを行った。村内の3カ所(電源確保が可能で見通しがよい標高の高い地点)に仮設中継局を設置し、地理情報システムのDEM(数値標高モデル)から、地形的な死角の有無を判別するシミュレーションを行い、LPWA通信可能エリアのマップを作成した(別紙図3)。シミュレーションマップを見ながら、現地で通信試験を行った結果、通信可能エリアではほぼ通信が成功し、仮設中継局から地形的に死角となるエリアでは通信が失敗した。根羽村南東部の茶臼山高原は矢作川源流部であり、茶臼山高原付近に中継局を設置することで、森林内での正確な降水量の取得が可能であることと、上流部で豪雨があった場合に、リアルタイムの観測ができることが示された。本研究の一部は、2024年1月25日に九州総合通信局が主催した「ICT研究開発支援セミナー」で紹介した。https://www.soumu.go.jp/soutsu/kyushu/press/231222-1.html
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