信州大学

サンゴ礁海域における海底湧水の拡がり方の解明をめざした潮流シミュレーションモデルの構築

  • 豊田 政史(工学部 准教授)
  • 2024/06/04
与論島の東部沿岸海域では,かつて美しいサンゴ礁が広がっていたが,1998年の白化現象以降,回復が遅れている.その原因の一つとして,海底湧水による栄養塩の流入が指摘されている.申請者は,海底湧水の拡がり方を解明するため,現地観測とシミュレーションモデルの構築を行ってきた.2023年の現地観測では,潮汐に応じた特徴的な流れ場が確認されたが,再現計算ではその一部しか再現できなかった.今後は,詳細な地形データを取得し,モデルの精度を高めることで,海底湧水の拡がり方を推定していく予定である.

 南西諸島のサンゴ礁海域において,地球温暖化にともなう水温上昇や陸域からの赤土などがサンゴの生育環境を悪化させていることが指摘されている.研究対象としている与論島は,島の東部沿岸海域がサンゴ礁海域となっており,「東洋に浮かび輝く一個の真珠」と称される美しいサンゴ礁を誇っていた.しかし,1998年の大規模なサンゴ白化現象の際に大きなダメージを受け,未だ回復していない場所が多く存在する.この島には主だった河川は存在しないが,東部海岸付近で陸域からの栄養塩を多く含む海底湧水が確認されており,サンゴの回復を阻害している可能性が指摘されている.これまで与論島では,陸域地下水および海底湧水の研究が行われてきているが,海底湧水の拡がり方(海水流動場)については研究されていない.

 申請者は,海底湧水の拡がり方を解明するために,2017年から現地観測および潮流シミュレーションモデルの構築を行ってきた.これまでに潮流シミュレーションモデルの構築はおおむね終了しているが,コロナウィルスの感染拡大により,2020年からは現地観測を行えず,モデルの妥当性検証ができていなかった.そこで,2023年は10月下旬に5日間程度の現地観測を行い,その観測結果を構築済みのモデルで再現することにより,モデルの妥当性検証を行った.具体的には,現地観測では,与論島東海岸のサンゴ礁リーフ海域で流向・流速,水温・塩分,風向・風速を観測項目として,潮汐のタイミング(満潮・干潮,上げ潮・下げ潮)ごとの面的な観測と,5日間程度の定点連続観測を行い,現地観測を行った期間の再現計算を行った.得られた結果は以下のとおりである.

【現地観測】(図-1参照)

 与論島東部海域の流れ場は,潮汐とサンゴ礁や百合ヶ浜などからなる特殊な地形によって形成される.上げ潮時には,百合ヶ浜の存在が南北方向の水位差を生み出し,北から南に向かって流れる.下げ潮時には,外礁の存在が礁池内外の水位差を生み出し,リーフギャップから沖に向かって(東向きに)流れる.

【再現計算】

 礁池内外方向の流速変動傾向は示せたが,礁池内において,潮汐が観測結果と一致せず,流向が逆向きになる期間が存在した.このことから本研究で行った再現計算は,潮汐および流れ場の部分的な再現にとどまったといえる.また,さまざまな条件での数値実験の結果,再現精度向上のためには,対象海域の詳細な地形データが必要であることが予想された.

 今後は,対象海域の詳細な地形測量を行い,モデルの再現精度を向上させ,与論島の代表的な気象条件のもとでの潮流解析を行い,海底湧水の拡がり方の推定へとつなげていきたい.

図-1 流向・流速の定点連続観測結果

現地観測風景(サンゴ礁海域での水質観測)

現地観測風景(陸上での風向・風速観測)

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